折り紙が苦手な堀辰雄
2015-11-04


小説家・堀辰雄は、少年時代に数学者を志望していたという。事実として間違いないようだ。しかし、それを本人の文章で確認しようとしているのだが、それらしいものは見つけることができていない。本人は書いていないのかもしれない。

『幼年時代』という自伝的エッセイの中に、小学校時代に算術が得意だったという話はあった。そして、そこには、図工が苦手だということも記され、初めて幼稚園に行ったときの、以下のような想い出の記述もあった。これは、折り紙関係者として微苦笑した。
午後からは折り紙のお稽古があった。例の少女のところでは、小間使いが一緒になって、大きな鶴をいく羽もいく羽も折っていた。私には折り紙なんぞはいくらやっても出来そうもないので、おばあさんにみんな代りに折って貰いながら、私は何かをじっと怺(こら)えているような様子をして、自分の机の上ばかり見つめていた。
堀辰雄と堀越二郎をひとりの人物として描いた宮崎駿監督の映画『風立ちぬ』の影響で、辰雄にも、いわゆる理系男子のイメージがついたところがある。これには、辰雄の年少の友人で、『菜穂子』に登場する明のモデルとなった、建築専攻の詩人・立原道造のイメージも混淆しているので、すこしややこしい。いっぽうで、辰雄が現実に理系男子でもあったことが、あながち見当違いではないのも、事実の奇なるところである。ただし、映画で「きれいな線を引く」と言われていた二郎とは違って、図工が苦手だという実際の辰雄は、絵に関しては、観るのが専門だったと思われる。むしろそれゆえに、絵を描く女性(矢野綾子)に惹かれたということかもしれない。『幼年時代』にでてきた、折鶴を折るツンとすました少女は、『美しい村』の「彼女」こと矢野綾子に、どこか重なるところもある。

堀辰雄と宮崎駿さんと言えば、辰雄に『羽ばたき Ein Marchen』という、妙にジブリっぽい話があるのにも驚いた。千羽の鳩が棲む高い塔のある町の話で、登場する少年の名前はジジとキキという。宮崎さんは読んだと思うが、これに言及したという話は、寡聞ながら知らない。ちなみに、Marchenのaにはウムラウトがつくはずである。
[折り紙]
[もろもろ]

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