『なずな』:伊都川市内折り紙コンクール
2012-03-10


運動不足解消もかねてベビーカーでの散歩は続け、記事を書き、校正をし、本を読み、取材先に疑問点を電話で確認したりして、仕事はそれなりに進めていた。なかで印象に残ったのは、佐竹さんが冷静沈着に報告してくれている第三回市内折り紙コンクールの模様 - 大賞は、新富町の印刷会社経営・新井悟さん(32歳)による「エスプレッソマシン」- 、そして、梅さん自身による三本樫保養所再利用計画に関する小文だった。前者は特大の紙を使った精緻な模型のような出来映えで、圧倒的な指示を得ての大賞だったという。見出しは「アロマの漂う折り紙」。 『なずな』(堀江敏幸著)

生まれたばかりの弟夫婦の子をあずかることになった四十男の視点による小説『なずな』の一節である。彼が地方紙の記者をする架空の町・伊都川市には、上記の引用のように、市内折り紙コンクールがある。(折り紙コンクールに関する記述は、上記引用部分だけである) 伊都川は、人口五万人ぐらいと思われる大きくはない市だ。全国規模にして初めてコンテストが成立する現実の折り紙コミュニティーを実感している身としては、この設定はファンタジーである。奇妙な、しかし魅力的なパラレルワールド。

『なずな』は、すこしずつ、ときどき思い出したように読んでいたので、読み終わるまで半年ぐらいかかってしまった。そういえば、同じ堀江さんの『河岸忘日抄』も、そんな読みかたをした。読むものに困ったときにキープしてある本というのとはちょっと違っていて、ゆっくりと文章を読みたい気分のときのための本だった。
[折り紙]

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