風車と風船
2017-09-22


先日、TVドラマ『眩(くらら)〓北斎の娘〓』(朝井まかて原作、大森美香脚本 加藤拓演出)を視た。次の台詞に密かに涙したひとは多かっただろう。

「三流の玄人でも、一流の素人に勝る。なぜだかわかるか。こうして恥をしのぶからだ。己が満足できねぇもんでも、歯ぁ喰いしばって世間の目に晒す。」
『眩』朝井まかて)

よいドラマだったのだが、「重箱の隅つつき」を、以下にふたつほど記す。

ひとつは、曲亭馬琴を滝沢馬琴と呼んでいたことだ。滝沢は馬琴の本名である。よって、それは、江戸川乱歩(本名:平井太郎)を、平井乱歩と呼ぶようなものだ。間違いとは言い切れないし、わざとかもしれないが、後世のひとではなく、劇中の同時代の人物が面と向かってそう呼ぶのは、違和感がある。

もうひとつは、風車である。劇中、図のような風車がでてきた。わたしは、ほかの時代劇でもこれがでるたびに気になる。
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NHKで考証をしている(『眩』に関わっておられたのかは知らない)大森洋平さんの『考証要集』の「風車」の項は、以下である。

「風車【かざぐるま】 江戸時代の考証随筆『守貞謾稿』(岩波文庫、第四巻、二八六頁)によれば、漢名も同じで「古からある物なり」とある。戦国時代劇に出してもよいだろう。」

この記述自体は正しい。しかし、問題は風車のかたちだ。果たして、上の図のような、「風車の弥七」が使っているような風車は、近世以前にあったのか。大森洋平さんも参照している『守貞謾稿』には挿絵がある(『近世風俗志(守貞謾稿)<4>』)。それは、下の図に示した、放射状の竹ひごの先に紙片などをつけたタイプの風車だ。『眩』には、このタイプも出てきたが、近世以前の風車の基本はこれであろう。
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『守貞謾稿』(幕末)の風車

錦絵などでも「正方形切り込み風車」の図像を見たことはない。やや似た、八回回転対称のものは、『纂花鳥風月』(くみかへてくわてふふうけつ)を描いた絵(歌川国貞(三代豊国))(下の図:模写)で見た。
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『纂花鳥風月』(幕末)の風車

「正方形切り込み風車」に似た折り紙の風車も、明治以降にフレーベルの恩物が輸入されたのちに見られるものであるようだ。「正方形切り込み風車」は、厚い紙か樹脂でないときれいにできない。セルロイドなどの樹脂の普及に伴い、夜店の販売で広まったのではないか。


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