玉鹿石
2008-09-08


武蔵境駅や吉祥寺駅にはなじみがあるが、それに挟まれた三鷹駅周辺をほとんど知らないということに、ふと気がついた。予定が空いてしまった天気のよい日の散歩に、自宅から近いけれど知らない街というのは、ぴったりである。ということで、先日、三鷹駅近辺を歩いてきた。気になったのは、駅前の周辺案内板で見つけた「玉鹿石」なるものだった。
 最近執心の「丸石神」とは関係はないだろうなあと思いつつ、探し当ててみると、「青森県北津軽郡金木町産 1996年(平成8年)6月 」というプレートが添えられているだけで、それ以外の由来書きはなにもない石だった。これはなにか。玉川上水の脇にあると言えば、ははあと思うひとは多いかもしれない。青森県の金木と玉川上水。つまりこれは、太宰治と山崎富栄が入水したと思われる場所にある、銘のない墓碑なのであった。玉鹿石(ギョッカセキ)というのは石の種類の名前で、当地の特産らしい。
 ここ連日の雨にもかかわらず、これで自死ができたとは想像のつかない少ない水量、そして、当時に比べて草木の茂っているであろう岸。この日も、水面を覗き込むようにして、「ここなのか」というふうに写真を撮っていた青年がいたが、風景は変わり、生々しさは60年の歳月で洗われている。上水に沿った道は「風の散歩道」と名付けられ、三鷹の森ジブリ美術館に向かう道として、キャラクターの案内標識が並んでいる。
 太宰はここでは道祖神になっているのかもしれない、と思ったら、辛気くさいブンガク的感傷が吹き飛んだ。
[石造物]

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